イラストレーション

イラストレーションとは

イラストレーション(英:illustration)とは、「挿絵」「小説の中に書かれている絵」「新聞に書かれている絵」「図解」などの意味を持つ英語です。日本では「イラスト」と略されます。図像によって物語、小説、詩などを描写したり装飾し、図形的、または絵画的な視覚化表現をします。本来の意味でのイラストレーションとは、物語や小説の挿絵や、文章を説明するための図版など、情報伝達の手段としての絵や図などの視覚表現全般のことを指します。イラストレーションを描くことを職業にしている人をイラストレーターといいます。イラストレーションは情報を伝達する媒体の1つで、目的に沿って作成される絵や図像です。マスメディアを通じて社会の中で機能することを大前提としていて、グラフィックデザインの中の分野でもあります。そのため、作家自身の世界を一貫して追求する芸術・美術とは若干性質が異なるといえます。

イラストレーションの歴史

イラストレーションの起源は定め難いのですが、文字では表すことのできないものを絵によって表すことから始まります。その後、印刷技術の発明により活字の他に絵による図版が登場し、大量生産によって大衆化することで本格化しました。新聞、図鑑、解剖図などで挿絵が活躍します。19世紀後半には数多の文学作品に芸術的な挿絵が添えられ、西洋のイラストレーションは黄金時代を迎えました。印刷技術の大型化に伴い、ポスターが登場し、メディアとしての広がりを見せます。ヨーロッパでは、アール・ヌーヴォーの画家やデザイナーが華を咲かせました。ラファエル前派、アーツ・アンド・クラフツ、ナビ派、アール・デコなどの美術潮流と相互に影響を受けました。その後、19世紀末から20世紀初頭にはアメリカ合衆国がイラストレーションの黄金時代を迎え、現代に至るまでのイラストレーションの原型がほぼ出揃います。

イラストレーションの語源

英語のillustration, illustrate及び西洋諸言語の同系の言葉の語源は「照らす」「明るくする」を意味するラテン語lustrare(さらにはlux「光」に遡り、英語illuminate「照らす」と同一語源)で、明るくすることから転じて「分かりやすくする(もの)」という意味となりました。従って、西洋でのillustrationの元々の意味は図解や挿絵など印刷物の中に扱われ理解を助ける「図版」のことでしたが、現在はさらに拡大した解釈で用いられています。

日本語のイラストレーション

イラストレーションは、日本では略してイラストと呼ばれ一般化していますが、この略称は日本で作られたもので、海外では通じないでしょう。現代の日本におけるイラストレーションは単に絵を示すことも多くありますが、西洋のillustrationは基本的にはその意味がなく、また必ずしも絵だけには限りません。芸術としての絵画(ファインアート)に対し、イラストレーターが制作するような分かりやすい「ポピュラー美術」に相当するのが現在の広義のイラストレーションでしょうか。挿絵はイラストレーションそのもので、絵本や漫画もイラストレーションに含まれ、もしくはイラストレーションを構成要素として持ちますが、これらはイラストレーションという呼称が普及した1960年代以前から存在していたため固有の呼称が用いられています。建築物の完成予想図(建築パース)もイラストレーションの一種であります。

日本におけるイラストレーションの歴史

日本においても、1950年代後半にはイラストレーションという呼称が用いられるようになり、1960年代にはグラフィックデザインから独立したジャンルを築きました。写真使用の一般化に伴い新聞雑誌などでの使用は減少しましたが、媒体自体の増加に伴い空間、環境、舞台、衣装、ウェブデザイン、コンピュータゲームなど、表現領域を大きく広げています。

イラストレーションの定義

イラストレーションにはさまざまな環境において大衆に訴求する分かりやすさが求められると同時に、大量に複製されることによって大衆が身近に触れることのできる絵画的表現物ともなっています。即時的な「消費される絵画」であると同時に絵画(タブロー)にはない共有性や同時代性も持ちます。他方で消費社会の高度化に伴い商業領域でも「個」に訴求する表現が受け入れられるようになり、表現者が美術とイラストレーションを往還し、またメディアも紙のみならずデジタルや環境などへと拡散していったため、美術との境界のみならずイラストレーションそのものの定義も揺らぎつつあります。

イラストレーションの用途

イラストレーションはさまざまなテーマを表現することができるので、以下のような幅広い目的に用いられます。

  • 物語のニュアンスを浮き彫りにする。
  • 読者に感情を吹き込む。
  • 登場人物に人格や顔を与える。
  • 教育・科学的な記事などを視覚化する。
  • 利用ガイドや取扱説明書などの説明を図式化する。
  • 商品が売れるようにする。

写真とイラストレーション

今日では用途の少ない部分は写真で代用可能となっていますが、それゆえに独自の表現を求めてイラストレーションは多様化し、また、イラストレーターの目と手を通じた抽象化や説明性は対象を写真よりも理解しやすくとらえています。そして図鑑などのサイエンティフィック・イラストレーションや技術分野でのテクニカルイラストレーションとして生き続けています。

美術とイラストレーション

イラストレーションはメディアで複製され機能する、メッセージを伴う図版表現として芸術作品からは区別されます。これは機能からの分類で、機能と切り離してみれば「絵」の一種というべきでしょう。独創的な芸術作品もまたしばしば書籍のカバーや挿絵などのイラストレーションとして利用されます。逆にイラストレーションの原本がその制作時の文脈に関係なく芸術作品として取り扱われ画廊などで販売されたりることも少なくありません。美術においては画家という「個」から出発して1つの普遍性を目指しますが、イラストレーションにおいては即座に人を捉える分かりやすい「個性」が求められます。このため、美術では常に人とも過去の自分とも異なる表現が求められますが、イラストレーションではそうした桎梏から自由な反面、一度タッチなどの作風が定着するとその作風を反復し続けることを要求される側面もあります。

イラストレーションに関わる職業

イラストレーションに関わる職業はイラストレーター・写真家・その他の「クリエイター」だけではなく、作家や作品と最終的な顧客との関係を確保する重要な役割を担う仲介者も含まれます。アートディレクターや制作ディレクターはイラストレーションの様式やアーティストをプロジェクトに最も適するように選択し、関係を確立し、仕様書を渡し、仕事の進行を管理し、必要な訂正を行わせます。図版担当の編集者は写真・文献・版画・絵画など、既に存在するありとあらゆる形態のイラストレーションから必要なものを探し出し、個人・各種組織・図書館・美術館などの著作権所持者との交渉を行います。

イラストレーションの黄金時代

19世紀後半はヨーロッパとアメリカ合衆国における「イラストレーションの黄金時代」と考えられています。一般大衆向け出版の発達と雑誌の出現がイラストレーションの流布を増大させました。木口木版(英語版)術は、熟練した製版家の力と相俟って、デザイナーの仕事を極めて細かいディテールまで再現することを可能にしました。新しい印刷技術の発明(とりわけ写真製版)は挿絵画家たちにカラーや新しい表現技法を実験する自由を与えました。

フランスのイラストレーション

フランスではポール・ガヴァルニ(フランス語版)、J・J・グランヴィル、そしてとりわけギュスターヴ・ドレによってこの分野は芸術の域にまで到達しました。ドレの『ラ・フォンテーヌ寓話集』『シャルル・ペローの童話』、セルバンテスの『ドン・キホーテ』などの挿絵は一時代を画するものでした。1860年代ロンドンの貧困の陰鬱さを反映したこれらの挿絵は、社会問題の芸術分野での現れの注目すべき例でもありました。

熟練製版家とイラストレーション

熟練した製版家によって実践される木口木版術の恩恵で、出版社は大量のイラストレーションを使用しました。熟練製版家の存在がなければ、どんな単純なイラストレーターの仕事も出版されることはなかったのでは無いでしょうか。最も代表的な例はおそらく、ジュール・ヴェルヌの小説を出版したエッツェル社です。本文とは別に印刷して、別丁にしなければならない他の技法(凹版やリトグラフ)とは対照的に、この技法は挿絵を本文と同時に、多くの部数に印刷することが出来ました。デザイナーの制作した原本を再生産する仕事をするこれら製版家の大部分は、彼ら自身もまたイラストレーターでした。フランソワ・パンヌマケ(フランス語版)、エドゥアール・リウー、レオン・ベネット(フランス語版)などがそうです。エドゥアール・マネ、エドガー・ドガ、やや後のピエール・ボナールといった偉大な画家たちも、エドガー・アラン・ポーの詩やギ・ド・モーパッサンの小説の挿絵を描いていました。

イギリスのイラストレーション

イギリスでは、ジョン・テニエルによる挿絵がルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の幻想世界を読者たちに表現してみせました。ドレやテニエルがモノクロームの版画で幻想的な作品を作り続けた一方で、他のイラストレーターたちは色彩の可能性を発見していきました。彼らは特にラファエル前派の画家たちの影響を受け、ウィリアム・モリスが興したアーツ・アンド・クラフツのデザイン志向の手刷りによる技術を模倣しました。エドマンド・デュラック、アーサー・ラッカム、ウォルター・クレイン、カイ・ニールセンなどがこのスタイルの代表例で、新中世趣味(英語版)の風潮を持ち、神話や説話を題材にすることが多くありました。

ビアトリクス・ポター

上記のそれとは対照的に、ビアトリクス・ポターは彼女自身の短い物語に、ヴィクトリア朝様式に着飾った動物たちを自然観察に基づき描いたイラストレーションを添えた『ピーターラビット』で大衆的な人気を獲得しイラストレーションの領域を広げました。黄金時代のイラストレーターたちの豊饒さと調和は、1890年代にはジャポニスムや板目木版と影絵に影響され密度の薄い白黒のスタイルに回帰しアール・ヌーヴォーやナビ派を先取りしたオーブリー・ビアズリーなどのイラストレーターによってさらに際立ったといえるでしょう。

20世紀末以降のイラストレーション

20世紀以降のイラストレーションも、イラストレーションの伝統的な技法は教えられ利用され続けています。(美術学校(英語版)、応用美術、グラフィック・アート……)。イラストレーションの添えられた出版物(児童書、雑誌、教育書、百科事典……)は増加を続けています。手描きのイラストレーションは専門誌(コンピュータ誌や女性誌など)で人気を取り戻していて、若年層向けの雑誌や書籍でも急速に数を増やしています。

今日のイラストレーション

今日では、書籍・雑誌・ポスターなどで使用されたイラストレーションの原画を蒐集し眺めることへの関心が高まりつつあり、数多くの美術館・美術雑誌・画廊が、昔のイラストレーターたちのためにスペースを割いています。アートブックやイラスト集などとしてイラストレーションそのものが商品となることも多くあります。媒体の選択肢が広がり、ビジュアルデザインやインフォグラフィックなどの概念も発達し、空間・環境などの領域への進出も見られます。情報機器の発達によって可能になったコンピュータゲームやウェブサイトなどのようなマルチメディアやコンピュータグラフィックスのイラストレーションもまたますます存在感を増しつつあります。

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